ラフカディオ・ハーン(ギリシャ)は1890年(明治23)に日本に着き、その年、松江に中学校英語教師として赴任、小泉セツと結婚、熊本・東京と歴任する間、日本に帰化、小泉八雲と名乗ります。
1903年(明治36)急逝、日本を愛し続けたと言ってもよい生涯を閉じました。
名作『怪談』をはじめ、日本の姿を欧米に伝えたハーンの著作には、現代日本が忘れてしまった魂の郷愁に似た懐かしさと美しい古き日本が記されています。
ことに彼が生涯を通して愛し、「神々の国の首都」と呼んだ松江の風景描写の美しさはどのような文学作品でもかなわない瑞々しさと幻想性に満ちています。
しかし、ハーンが日本の最初の一歩をしるした横浜では、「日本」という運命的なものに出会ったという興奮と感動が伝わり印象的です。
この極東の国にいるという実感が名状しがたい神々しいものに変わったのは、その日のこの世ならぬ美しさによるものであった。
朝の大気の冷たさは日本特有のもので、雪に覆われた富士の頂から波のように寄せてくる風のせいだった。
魅力と言ったのも、何かはっきりと目に見える色調によるのではなく、いかにも柔らかな透明さによるものだと言い、こう付け加えます。
小さな妖精の国―人も物も、みな、小さく風変わりで神秘をたたえている。
青い屋根の下の家も小さく、青い着物を着て笑っている人々も小さいものだったと。
桜が咲き市街と湾が見渡せたとある神社の境内でハーンは、どうして日本では樹木がこうも美しいのだろう。
西洋では、梅や桜が花をつけても、目を見張らせる光景になるということがない。
それがこの国では世にも不思議な美しさになる。
この神々の国では、昔から木々もまた、人間に慣れ親しんで我が子のようにいとおしまれ、その果てに木々にさえ魂が宿るようになり、ちょうど愛された女のするように自分をいっそう美しくすることによってこの国の人たちに感謝の意を表そうと努めているのだろうかと感嘆しています。
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